亘さんは世渡り上手


亘さんは俺を全く男として意識しない。


それはムカつく反面、どこか安心をもたらしていた。


谷口みたいに、関係が進むのを求められない。それは、俺にとって理想の高校生活だ。


俺が亘さんに感じていた安心は、こういう意味だったんだと気付いた。


くだらない会話をしても、亘さんを意識してみても、亘さんが俺に振り向くことはない。


たとえ俺が亘さんに好きと言ってみても、亘さんは俺と友達でいることを望むだろう。もう映画館で経験したことである。



……俺は、亘さんと友達でいてもいいかもしれない。



そう思うようになった。


俺が変な素振りを見せなければ亘さんから疑われることもない。考えると単純なことなのに、今まで思い付かなかった。


だから、亘さんと心から友達になろう。


別に、亘さんのことは好きじゃないけど。


でも、嫌いじゃないんだから。

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