亘さんは世渡り上手


急に口の中が渇いて、いいよ、と返事する声がかすれてしまった。


借り物競争という文字の横に俺の名前が書かれる。


亘さんも、希望通り借り物競争になれたんだろうか。もしなれていたら、一緒に頑張ろうねと話しかけて……。


ちらり、と亘さんを盗み見ると、あろうことかばっちり目があってしまった。


あっ、と小さく声が漏れる。目を逸らすことができない。


数秒間見つめ合っていると、心臓がだんだんと早く脈打っていくのがわかった。亘さんはハッと何かを思い出したように瞬きをして、胸の前で拳を握ってくる。


頑張りましょう、ということだろう。俺は薄く笑って返してみせた。



「おっ、借り物競争やんの? おまえ、ヤバいお題でたらどうすんだよ~!」



高橋が笑顔で話しかけてきた。



「ヤバいって?」


「好きな人とか!」


「え、いない場合はどうもできないじゃん。……あー、友達とかでいいでしょ」


「……ん? 委員長が好きなんだろ?」


「あっ」



口を押さえる。


いっけね、その設定忘れてた。

< 55 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop