亘さんは世渡り上手
急に口の中が渇いて、いいよ、と返事する声がかすれてしまった。
借り物競争という文字の横に俺の名前が書かれる。
亘さんも、希望通り借り物競争になれたんだろうか。もしなれていたら、一緒に頑張ろうねと話しかけて……。
ちらり、と亘さんを盗み見ると、あろうことかばっちり目があってしまった。
あっ、と小さく声が漏れる。目を逸らすことができない。
数秒間見つめ合っていると、心臓がだんだんと早く脈打っていくのがわかった。亘さんはハッと何かを思い出したように瞬きをして、胸の前で拳を握ってくる。
頑張りましょう、ということだろう。俺は薄く笑って返してみせた。
「おっ、借り物競争やんの? おまえ、ヤバいお題でたらどうすんだよ~!」
高橋が笑顔で話しかけてきた。
「ヤバいって?」
「好きな人とか!」
「え、いない場合はどうもできないじゃん。……あー、友達とかでいいでしょ」
「……ん? 委員長が好きなんだろ?」
「あっ」
口を押さえる。
いっけね、その設定忘れてた。