亘さんは世渡り上手
ホームルームが終わり、帰りのショートホームルームまでの休み時間。
トイレに行った帰りに、事件は起きた。
「――――亘さん、私と勝負して!」
「わかりました」
そう見知った声がしたとき、嫌な予感がして柱の影に隠れる。
声の主は……谷口と亘さんだ。
谷口は人差し指を亘さんに突き出して、眉毛をつり上げていた。一方の亘さん、いつも通り無表情である。
「なんか軽いじゃんっ! そこは『受けてたちます。ファサッ……』ってするところなの!」
「え、ええと……。受けてたちます。ファサッ……」
「ファサッは声で言うんじゃなくて、手で髪を流す仕草だよ!」
「こ、こうですか?」
亘さんは長い黒髪をファサッとさせた。
「そう、それ。百点」
さっきとは違う意味で谷口は亘さんを指差している。
漫才か?