亘さんは世渡り上手
体調が良くない。さっさと帰って父さんに会いたい。
帰りの号令を終えて一番に教室を出た。腹の痛みが治らない。早く、父さんに会わないと。早く、早く、早く。
――何が恋だ。何が愛だ。
この思考で埋め尽くされてしまう前に、早く。
――どうして俺のことを好きになる? どいつもこいつも、どうして俺に愛を求める?
やめろ。やめてくれ。思い出したくない。
ぎりぎりぎりぎり。腹の痛みが一層強くなる。
――痛い。熱い。段々と痛みが静かになって、眠くなる。冷たい。
やめろ、やめろ……!
校門を出て、咄嗟にスマホの電源をつける。
「はぁ、はぁ、はっ……」
空気が上手く吸えなくなっていた。
父さんに連絡しようとラインを開く。俺の目に飛び込んで来たのは――亘叶葉の文字だった。
……亘さん。亘さんは、俺を、どう思ってる? 俺のこと好きなのか?
嫌われなきゃ、亘さんに。
友達になんてならなければよかった。男と女が仲良くすれば、いずれ下心が芽生えるのもおかしくなかったんだ。でも、俺は亘さんを信じたくて――
「和泉くん……っ」
そんな声に思わず振り向くと、亘さんが息を切らして立っていた。