亘さんは世渡り上手
亘さん……?
どうして俺を追いかけてくるんだ。やっぱり俺が好きなのか?
どうする。いつもの俺で行くか、それとも、もう突き放してしまうか。
ダメだ。染み付いたくせが抜けない。俺は自然と笑顔を作っていた。
「どうしたの、亘さん」
「和泉くんの様子が変だったので、追いかけてしまいました」
「あー、うん。今日ちょっと用事があって、早く帰らなきゃいけないんだよね」
「……そうですか。あの、じゃあ駅までご一緒してもいいですか?」
いいわけないだろ。
心の中ではそう言うものの、息を切らした亘さんを見ると走ってきたことは明らかで無下に断れない。
「別に、いいけど。本当に急いでるから、歩幅合わせないよ?」
「大丈夫です。わたしが合わせます」
亘さんは厄介だ。
もう思うことはないと思っていた言葉なのに、またやってきてしまった。