亘さんは世渡り上手


谷口には悪いと思う。あんなに本気になって勝負をしたのに、亘さんは俺が谷口になびかないことを確信した上で勝ったんだから。


でも、亘さんの行動は正解だ。谷口が傷付かない方法は、これしかなかった。まぁまだ、俺のことは諦めてないみたいだけど。



「……あ、あの」



亘さんがそう言って、まだ戻りきらない赤い頬を隠すように下を向いた。その際に、今まで繋がっていた手が離される。


少し、名残惜しいと思ってしまった。


俺は、亘さんといると心が安らぐ。父さんといるときと同じ気持ちになるんだ。だから、もう少しだけ……触れていたかった。



「今回はわたしが勝ちましたが、次は谷口さんが勝つかもしれません。なので、そのときまではしっかりと谷口さんのことを考えていてください」



今日は助けたけど、次はない、ということだろうか。


さすがに俺も、これ以上逃げるわけにはいかないと考えていた。亘さんにここまでされて、八木から谷口の気持ちをあそこまで聞かされて、心が動かないわけがない。


今はまだ、誰に対しても良い返事は出せそうにないけど。


ほんの少しだけ、恋愛への考え方が変わっていた。


――偽物だけじゃない。本物だってある。全員がアイツのように愛だけを求めているわけじゃない。

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