亘さんは世渡り上手
亘さんの笑顔
「亘さん、笑ったら絶対可愛いのに」
俺はぽつりとつぶやいた。
何気ない独り言だ。
「そうですか?」
あれ、亘さん。
どこから現れたんだろう。さっきまで俺はひとりだったのに。
でもまぁいいか。
「うん、笑ってみてよ」
「いいですよ」
亘さんが、俺をじっと見て――――
目を開けると、真っ白な天井が映っていた。
「…………」
夢だった。
それもこれも、亘さんが俺に隠し事をするからだ。あれから完全に距離を置かれている。接し方が友達からクラスメートに戻ってしまった。
あのメモを見たことが原因なんだろうけど……俺、別に亘さんが笑わない理由なんてどうでもいい。それよりも、あれだけ俺と友達になりたがっていたくせに、たかがあんなことで関係を変えるのが気に入らない。
まぁ、でも、隠されると逆に気になるよな。人間って、何があったら意図的に笑えなくなるんだろう。……そう考えると、俺も人のこと言えないか。
遠くから聞こえるセミの声にうんざりする。
もうすっかり夏だ。どんどん夏休みが近づいてくる。
だから、今の俺には亘さんが必要なのに。近くにいてもらわなきゃ困るのに。
まったく、何を怖がってるんだよ。亘さんらしくない。