亘さんは世渡り上手
「亘さん、おはよう」
「和泉くん、おはようございます」
この、今までと何の変わりもないように見える俺と亘さんの挨拶。
いつもの亘さんなら「今日こそはわたしから挨拶したかったんです……!」とでも言いそうなものの、そんなことを言うこともなく会話が終了してしまった。
ここのところ、ずっとこの調子だ。そっけない、この一言に尽きる。
ほんと、生意気だ。亘さんのくせに。
俺は、亘さんが人を嫌うことはないと思っている。誰に対しても平等な態度で、誰とでも仲良くなろうとする。そして――嫌われた場合は、今の俺のように接するんだ。
なんだよ、俺、亘さんのこと嫌いじゃないのに。むしろ……いや、これはまだ早いか。
亘さんは、俺が隠し事をされたくらいで亘さんを嫌いになると思ってるのか? そりゃあ確かにムカつくけど、嫌いになるってほどじゃない。
今なら許してやるから、早く戻ってくれよ。
「ねぇ……理人、ちょっといい?」
谷口が俺の袖をぐいと引っ張った。
表情は不安そうで、視線は亘さんの方を向いている。もしかしたら、谷口も亘さんの違和感に気付いているのかもしれない。
そういえば亘さんは、体育祭の日、谷口に対して少しからかうような発言をしていた。そして、俺にも最近そういう態度を取るようになっていた。
たぶん、あれは亘さんにとってクラスメートから一歩進んだ『友達』の接し方だったんだと思う。