亘さんは世渡り上手


教室から廊下に移動して、谷口の言葉に耳を傾ける。



「えっと……二人って、まだ付き合ってないんだよね?」



ちらちらと期待の眼差しで見上げられた。



「あぁ……うん。告白はされたけど、愛の告白じゃなかった、かな」


「えっ!? …………亘さん、騙したなぁっ!?」


「……なんの話?」


「あっ、ううんっ! こっちの話っ!」



谷口、おまえ嘘へたすぎだろ。白々しさしかないんだけど。


というか、この話をするために呼び出したのか? それなら、俺はもう教室に戻らせていただきますが。



「そ、そうじゃなくて……最近亘さん、調子悪くない?」



戻ってやろうかと動かしかけた足は、谷口のその言葉でぴたりと止まる。



「……やっぱり、そう思う?」


「うん。時々、亘さんのことをにら……見てるんだけど、いつもはすぐ気付いて見返してくれるのに、最近それがない」



俺の前だろうがボロボロこぼすようになってきたな。そういう理由で見てたのかよ。


ミステリー小説の推理パートのごとく、谷口は顎に手を添えて考え出した。



「亘さん、私のこと友達だと思ってるとか言ってきたくせに……」


< 90 / 291 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop