亘さんは世渡り上手
教室から廊下に移動して、谷口の言葉に耳を傾ける。
「えっと……二人って、まだ付き合ってないんだよね?」
ちらちらと期待の眼差しで見上げられた。
「あぁ……うん。告白はされたけど、愛の告白じゃなかった、かな」
「えっ!? …………亘さん、騙したなぁっ!?」
「……なんの話?」
「あっ、ううんっ! こっちの話っ!」
谷口、おまえ嘘へたすぎだろ。白々しさしかないんだけど。
というか、この話をするために呼び出したのか? それなら、俺はもう教室に戻らせていただきますが。
「そ、そうじゃなくて……最近亘さん、調子悪くない?」
戻ってやろうかと動かしかけた足は、谷口のその言葉でぴたりと止まる。
「……やっぱり、そう思う?」
「うん。時々、亘さんのことをにら……見てるんだけど、いつもはすぐ気付いて見返してくれるのに、最近それがない」
俺の前だろうがボロボロこぼすようになってきたな。そういう理由で見てたのかよ。
ミステリー小説の推理パートのごとく、谷口は顎に手を添えて考え出した。
「亘さん、私のこと友達だと思ってるとか言ってきたくせに……」