亘さんは世渡り上手
むしろ、フラれたのは俺の方じゃないか? 一応、期待というか覚悟というか、気持ちを固めて挑んだのに告白されなかったんだから。
「ちょ、ちょっと待って、谷口。誤解しかない。ていうか、それ、全部谷口の妄想でしかない」
「じゃあ、真実は?」
「それは、えっと……」
あれ、あのメモのことは谷口に言っていいんだっけ。そもそも、こういうのって人に言いふらしてもいいのか?
あれは、たぶん亘さんにとって最大の秘密だ。俺や谷口と友達でいられなくなるくらい重い秘密。
ダメだ、今の俺には判断ができない。
「亘さんって、笑わないでしょ?」
「ん? うん。え……だからなに?」
あっけらかんと言い放つ谷口。きっと亘さんだって、谷口みたいなやつしかいなかったらああにはなっていない。
「あれ、意図的に笑ってなかったんだ。俺、それを知っちゃって」
「亘さんはそれを知られたから、よそよそしくなったって?」
「たぶん」
話が終わると谷口は斜め上に視線を向けて、こてんと首を傾けていた。この反応を見ると、谷口には言って正解だったかもしれない。
「んん……? 悪いけど、理解できないかも」
「みたいだね」
「笑いたいなら笑えばいいじゃん? うーん。私にできることはなさそう。理人、頼んだ!」
そう言って俺の背中を軽く叩くと、谷口は教室に戻っていったのだった。
……絶対、意味わからなくて投げ出したよな、あれ。