亘さんは世渡り上手
さて、どうしようか。どうやって亘さんとまた話せるようになろう。
そもそも、亘さんがよそよそしくなる理由が曖昧だ。亘さんの秘密を俺が知ってしまって――俺が谷口にも言ってしまって――亘さんは、どう思ってるのだろうか?
怒ってる? 悲しんでる? ……それすらわからない。あーもう、なるほどな、こういうときに無表情だったら困るのか。
俺も谷口に続いて教室に戻るとき、亘さんに目線を向ける。亘さんは友達と会話していた。
特別違和感はない。会話を早く終わらそうとするとか、会話をしようとしないとか、そういうことは見られなかった。あからさまに、俺に対しての態度とは違う。
また、俺の腹の中にムカムカと怒りの感情が湧いてくる。俺だって、亘さんと話したい。変なところで悔しがったり、変なところで照れたり、無表情なのに手に取るように感情がわかる亘さんと。
――俺の、高校で初めて信頼してもいいと思えた亘さんと。
「亘さん」
俺は亘さんに近づいた。振り向いた亘さんは、見るからに体を強ばらせている。
……初めて、亘さんに警戒されたかもしれない。それは、静かに俺の心にぐさりと刺さった。
「ちょっと、話があるんだけど」
もう逃がさないから、覚悟しとけよ。
「……はい。では、放課後に」
亘さんはゆっくりと頷いた。