亘さんは世渡り上手
心で強く結ばれた縄が、少し緩くなった気がした。
亘さんの声、表情、話せているという感覚が、安堵をもたらしてくれる。
やっぱり亘さんはすごい。
「実は、あれからずっと、笑顔の練習をしていたんです。上手く笑えるようになったら、和泉くんに報告しようと考えていて……。でも、それまではなるべく和泉くんと接するのを我慢しようかと……」
ん……? 今、聞き捨てならない言葉を聞いたような。
俺と接するのを、我慢……?
「……俺と話さないの禁止」
「え……」
「亘さんが笑うとか笑わないとか、そんなのどうでもいい。俺は、亘さんが一緒にいてくれたらそれでいい。満足。だから、俺と一緒にいて」
ダメ。絶対ダメ。亘さんと話せないとか、そんなの俺が我慢できない。
だからこうやって呼び出してまで話をしようとしてるのに、なんでこういうときに限ってわからないかなぁ、亘さん。
「…………え、っと……。嫌です」
「は?」
なんだこいつ。こっちがこんなに下手に出て、一緒にいろって頼んでるのに。俺より笑顔が大事なのかよ。
小さな声で「そう言ってもらえるのはありがたいのですが……」と聞こえた。なんだこいつ。嬉しいなら一緒にいろよ。