亘さんは世渡り上手
「笑えるようにはなりたいので……」
「あぁーそう! じゃあ笑えよ。簡単だろ? 口角を上げるだけ。ほら、にこー。はい、やってみ?」
「和泉くん……怒ってます?」
「は、はぁ? べ、別に怒ってないけど。それより、笑いたいんだろ? 笑い方教えてやるから、俺の隣にいろ」
「和泉くん、なんだか話し方が……」
「う、うるさいな! これがほんとの俺なんだよ! 何!? 嫌いになった!?」
「いいえ。なりません」
「……っ、あっ、あっそ……」
な、なんで俺が振り回される方なんだよ……。なんで俺が最終的に照れてるんだよ……。
でも、そうか……亘さんは、『和泉理人』じゃない俺でも今までと同じように接してくれるのか。
胸が締め付けられる。俺は、やっぱり亘さんの前だけは全部剥がれていく。かっこつけても、通用しない。口が悪くなっても、引かれない。だったら、無理に取り繕う必要なんてないじゃないか。
父さんにだって、俺の性格が悪いことは隠してるのに。
亘さんの前でだけ、俺は良い子をやめられる。疲れない。楽。楽しい。嬉しい。――温かい。
……なんだこれ。なんなんだ。なんか、ムズムズする。
亘さんと目を合わせると、恥ずかしくなった。自分がここまで亘さんに心を開くなんて、二ヶ月前の俺は想像してないだろう。