ツララなるままに……いぬの章


 教室ではクラスメイトらが各々のグループを形成していた。

 千和子は自らのクラスにも関わらず、余所余所しい態度で華やかな女子グループに近づいた。
 その中心にいる女子生徒に声をかける。


「……あのう、キキちゃん?」

「何かしら、千和?」

「ゆ……百瀬先輩が外に来てるよ」
 
「悠真さんが? 連絡もしないで来るなんて珍しい」

「そうなんだ……。確かにそうかもしれないね」

「まぁいいわ、連絡ご苦労様。みんなごめん、私先に行くね」

「うぃーす、いってらー、樹々」


 樹々は黒く艶やかな長髪を揺らし、悠真の待つ教室の外に出た。


「え、えぇと……。失礼しました!」

「……うん。またね犬塚さん」

 用が済むと輪にいた子らに頭を下げ、千和子は自分の席へと向かった。

 廊下側にある席につくと、親しげに会話する2人の様子が伺えた。


 美男美女のツーショットは絵になる。
 何度も見た光景でも構いなしに、千和子の視線は2人に釘付けとなる。


 悠真に引けを取らない美少女、雉宮樹々(きじみやきき)は犬塚千和子のクラスメイトであり、自慢の幼馴染みである。

 樹々を一言で表すならば、千和子と正反対の人物だ。
 容姿端麗で眉目秀麗。友達も多く、学園のマドンナ的立場にいる。

 悠真と同様、生徒会に所属しており、 次期生徒会長候補の筆頭だ。

 ユー君がキキちゃんの元にきたのは生徒会関連だろうな。そんな結論に千和子は至った。


 ――同時に深いため息をついて見せた。

 それは他ならぬ、あの神々しくも映る幼馴染み2人に原因があった。


 悠真に樹々。ずっと側にいたのに、今では随分遠い存在になった。


 最近は2人に対して劣等感を抱いてばかりだ。
 それは発作みたいに前触れなく、ふとした瞬間に起こる。


「……ダメだよな私。色んな意味で」


 顔を下げ、落ち込んでしまう千和子。

 高校に入学してからずっとこの調子だ。

 なので幼馴染み以外の友人ができずにいる。

 樹々が出ていった今、教室内で彼女に声をかけてくる者は1人しかいない。



「――何してんだよ、お前はさっきから」


「……えぇ? いっったぁっ!」


 重い空気を断ち切るように、千和子は誰かに本の角で頭を叩かれた。

 それなりの重さもあったので、ヒリつく傷みに襲われる。


 デコを撫でながら視線を上に向けると、目付きの悪い男子生徒が側に立っていた。


「次は移動教室だろ? ぼさっとしてんなボケ」

「いててて……そうだ、 色々あったから忘れていたよ。だ、だからってさ! 叩く事ないじゃん? キー君のバカ!」

「バカはどっちだよ?叩いて欲しそうにしてんのが悪い。ほら、さっさと行くぞ千和子」

 そう言うと、キー君こと猿柿希衣斗(さるがききいと)は去り際に千和子の額をまた叩いた。


「……だからもう、痛いってばぁ」


 千和子は涙目で希衣斗の後を追い、額と頬を染めながら教室の外に出た。



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