ツララなるままに……いぬの章
猿柿希衣斗。
これまた千和子の幼馴染みであり、同じマンションの住人だ。
しかも部屋が隣というオマケも付く。
2人は俗に言う『お隣さん』という間柄だ。
「待ってよキー君! ……きゃぁっあ!」
千和子と希衣斗とでは身長差が30センチ以上ある。
足の長さは大きく異なり、歩幅に差が生じる。
結果として同じスピードで歩くと、希衣斗の方が歩くのが俄然速い。
千和子は必死に追い付こうとするあまり、足がもつれて転んでしまったわけだ。
「今日はこれで2回目か。ついてない」
倒れ混んだ千和子に対し、希衣斗は蔑んだ目で見下してきた。
「どんくさ。早く起き上がれよ」
「……」
この程度の罵倒はいつもの事。
千和子は深く落ち込む様子もなく、無言で自らの足だけで立ち上がった。
希衣斗を一言で表すなら、悠真と正反対の人物だ。
学校でも家でも誰といても、いつも眉間にシワを寄せる。
高校入学を期に髪を茶色に染めており、ヤンキー高校生の身形をしている。
そんな残念な要素を併せ持ってはいるが、彼もまた秀でた人間であったりする。
運動神経が良くてバスケ部のエース。
不良と勘違いされるが、見た目に反して頭も良い。
学年首席という肩書きがあり、悠真とタイプは違うがルックスも良い。
優れた点を並べてみると、実は希衣斗が1番凄いんじゃないか? と思えてしまう。
そんな希衣斗の才能を1番近くで見続けてきたのが、他ならぬ千和子であった。
幼い頃から天才肌気質で、その気になれば何でも手にする事ができたキー君。
少しでも他の人に心を開けば友達も、彼女だって簡単にできちゃうはずなのに。
……私なんてどう足掻いても、キキちゃんみたいになれないのにさ。
憧れにも似た思い入れは非常に強い。