ツララなるままに……いぬの章


 吉備里高校は進学校である。

 授業のレベルはどれも高く、得意な文系ですら理解できるのがやっと。

 苦手な理系はお手上げ状態。毎学期どれか1つはテストで赤点を取る。


 2年に進学できたのは樹々と希衣斗の指導があってのもの。

 2人に迷惑はもうかけられない。


 今年は赤点なんて絶対に取らないぞ!


 意気込みだけは一人前の千和子であった。



 授業に集中すると、時間の経過はとても早く感じる


 五時間目……六時間目と、授業はどんどん進行されていく。



 本日の授業が全て終わると、多くの生徒は部活に励む事になる。
 


 千和子も部活に励んだ。

 もちろん、自身が運動音痴なのは自覚済み。


 千和子が入部しているのはバスケットボール部のマネージャーだ。

 中学の時から続けているから手慣れたものだ。
 得意なのは洗濯業全般。『しわがなく着心地が良い』と、部員達からは好評を得ている。

 鼻歌まじりにユニフォームやタオルを洗濯機から取り出し、さぁ干そうとしてところで、千和子はある異変に気付く。

 

 なんか、いつもより物干し竿の位置が高くないか?


 千和子は必死になって足と手を伸ばした。



「うー、親指が痛い」

「うわ、まじで届いてやがらねー。千和子の成長は小学校で止まってるな」


 背後に人の気配を感じた。

 誰か察しはついている。千和子と呼ぶのは、学校では1人しかいないから。


 後ろを振り返ると、ユニフォーム姿の希衣斗が立っていた。
 指先でボールをくるくると回転させてみせつけてくる。
 余裕そうな様をみると、一生続けられるのではと思ってしまう。


「その高さの位置にしたの俺なんだ。届くか届かないか、ギリギリのラインにしてみた」

「だろうね。私にこんな仕打ちするのキー君しかいないもん。やめてよねこうゆう事」

「こんな仕打ちするの俺だけって、誰にも相手にされてないの間違いだろ? かまってもらえてるだけ有りがたいと思え」

「し、知ってるよそんな事。……それより、またサボってるじゃん。ダメだよキー君、チームの輪を乱しちゃ」

「やるこたぁやっている。今は振替休憩だ。さっきまで俺、他の奴らより動いてたから」

「何それ不真面目。知らないよ、みんなから見放されても」

「いいよ、これしきの事で見放す奴らの事なんか」


 そう言い残し、希衣斗は千和子の元を去った。

「機嫌をそこねたな。いつも以上に怖い顔してた」



「……ってか、竿を直しに来てくれたんじゃないの? 一体何しに来たんだよ!」



「ふぬぬぬ……」


 千和子は小さい体を精一杯使い、マネージャー業に励んだ。





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