ツララなるままに……いぬの章



 部活が終わり、希衣斗と待ち合わせして生徒会室へと向かう。


「それにしても用って何かな? わざわざ呼び出しちゃって。休み時間にでも話してくれたらいいのに」

「他の奴らに聞かれたくないんじゃないか?」

「だったら誰かの家とか?」

「最近誰かの家に行ったか?」

「……そういや高校に入ってから1回もないな」

「だろ? まぁどうでもいいけど」


 そんな会話をしながら、二人は生徒会室にやってきた。
 戸の前に立ちノックをすると、中から樹々が出迎えてくれた。


「部活お疲れ様。さぁ中へどうぞ」

「うん。お邪魔します」


 部屋の中には樹々と悠真だけがいた。
 悠真は会長専用の豪華な席から笑顔を向けてくる。


「やぁ。わざわざ呼び出してごめんね。どうぞ座って座って」


「……わざわざ呼びつけてする話は何だ? 用件は早く済ませてくれよ。部活してる俺達は、案外暇じゃないから」


 希衣斗はダルそうな態度で質問を投げかけた。


 実を言うと、悠真と希衣斗の関係性は高校生になってから良くない。
 そうは言っても希衣斗が生意気言ったりするだけで、悠真は笑顔であしらうから、端から見れば仲が良くも見える。


「まぁまぁ、ちょっとくらいいいだろ希衣斗? 運動した後は甘い物を摂るといい。キキ、オレンジジュース、それとケーキも出して」


 樹々はジュースを『5つ』コップに注ぎ、箱に入ったケーキを取り分ける。


「はい、どーぞ猿柿君」

「これだから生徒会は……。無駄金ばかり使いやがって」


 希衣斗は置かれたジュースとケーキをぺろりとたいらげた。


 この男、大の甘味党である。


 生意気言う人だけど、甘い物で釣れるから、案外可愛い気があったりするんだよね。
 千和子は希衣斗を見て、和やかな笑みを浮かべる。


 希衣斗の様子を伺っていたのは悠真もだった。
 大人しくなったところで話を切り出す。



「……では話を始めようか。みんなを呼んだのは他でもなくて、会わせたい人がいたからなのさ」

「会わせたい人?」

「うん。……さ、入ってきていいよ『ツララ』」






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