彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
・ 存在意義
毎日、新出の古文書に触れて、それを解読して、歴史の未知の部分を詳らかにする。それは、ずっと変わらない史明の日常。絵里花はその中のパーツの一つで、一日に数時間、一緒に古文書の解読をするだけの存在なのかもしれない。
志しを同じくしている親近感。史明が絵里花に抱いている感情は、厳密に言えば恋愛感情ではなく、そう言ったものなのかもしれない。
「だけど、私はこのままずっと、〝いつも通り〟を続けていくつもりはないんだから」
夜の帳が降りた街を一人歩きながら、絵里花は呟いた。
でも、どうやったら、あの史明の日常を壊せる?どうやったら史明の胸をドキドキさせて、寝ても覚めても夢中にさせることができるのだろう?
「うーーん……」
絵里花は、店々の明かりに照らされた歩道の真ん中に立ちすくんで考えた。
……まるで、アイデアが浮かばない。
どんなに綺麗に飾っても、どんなに洗練された振る舞いをしても、どんなに身を粉にして親切にしても、史明には通用しないことは分かっている。普段の史明の、あの鉄壁とも言える〝無関心〟を知っているからこそ、全然想像力が働かない。