彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



「……こんなこと言いたくないけど、岩城さんが離れたくなかったのは絵里花じゃなくて、古文書の方だったってことはない?」

「……えっ……!?」


絵里花の顔色が、戸惑いを含んで青くなった。でも、そんなことはない筈だ。あのときたしかに史明は……、


「だけど、『離れたくない』って抱きしめてくれたし、キスもしてくれたのよ……?」


戸惑うあまり、絵里花は秘密にしておきたかったことを口走ってしまう。
か細い声で発せられる絵里花の弁解を、礼子はじっと聞いて、それから本当に優しい目で絵里花を見つめた。


「絵里花は研究を手伝ってくれて、それが彼にとってはすごく好都合で……、だから、あなたのその気持ちに気づいてた彼は、利用するために繋ぎとめようとしたんじゃないのかな?頭のいい人だったら、そのくらいの計算はしてるかもしれないね」


絵里花のことを一番に考えているからこそ礼子は、希望的観測の気休めではなく、敢えて厳しい意見を言った。


でも、ただ繋ぎとめたいだけで、史明はあんなことができるだろうか……。いや、史明は決して、自分の本心を隠し絵里花を騙して、キスができるような人間ではない。絵里花はそう信じていた。


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