彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



――ああ……。なんて素敵なの……!!


これは、絵里花だけにもたらされるご褒美のようなもの。感動のあまり涙が零れそうになっても、よだれが垂れそうになっても、ここには誰も見咎める者はいない。……そう、史明以外は。


「……おい。ずっとそこで、じぃっと見られてると、眠れないんだが?」


眠っているとばかり思っていた史明から突然声をかけられて、絵里花はビックリして我に返る。うっすらと目を開ける史明と目が合って、そのあまりの端麗さに絵里花はなおさら動きたくなくなってしまう。


――キスしてくれたら、眠らせてあげる。


そんなことを言って、小悪魔みたいにちょっと駄々をこねてみたくなったが、史明にこれ以上うっとうしがられたくないので、「すみません…」と小さく謝って後ろずさった。


整理棚の陰に隠れて、もう一度こっそりと史明の様子を確かめる。すると、史明はもう、「スースー」と寝息を立てていた。


――ここで、抱きしめてキスしてくれたのに……。


そこはまさに、絵里花と史明が想いを通じ合わせた場所。あの時は確かに、きつく抱きしめてくれて、情熱的なキスを交わした。あの時の史明が残してくれた言葉の余韻も、重なる唇の感触も、絵里花の体に深く刻まれ残っている。


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