彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「本当に、身の回りで変わったこと、ありませんか?」
「うん?身の回りで?特にないけど?」
史明は目も上げないまま、絵里花の必死な質問を聞き流す。そんな史明の態度に、絵里花は思わずムッとした。
「きちんと私の顔を見て、質問に答えてください!本当に何も変わったところありませんか?!」
突然豹変した絵里花の態度。その怒っている口調を感じ取って、さすがの史明も顔をあげる。そして、分厚いレンズの向こうから絵里花を見つめて、首をかしげた。
「……何も変わったことはない。それがいけないことなのか?」
少し怪訝さを漂わせた史明の答えを聞いて、絵里花の中の何かがプチンと弾けた。
「岩城さんは……、私のことなんて、本当に目に入っていないんですね」
「は?!」
絵里花の低い声に、史明は困惑してさらに眉を寄せた。
この期に及んでまだ気がつかない史明に対して、絵里花の中には怒りのような感情が湧き上がってくる。
史明の頭の中のほとんどを占めているのは、歴史のこと。史明に普通の男の感覚を求めてはいけない。絵里花もそれは十分に理解していたはずなのに、これまで降り積もってきた虚しさも一緒に溢れだして、自分の感情が制御できなくなった。