彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



その時、史明を見つめる綺麗な目から、堪え切れなくなった涙がポロリと零れ落ちた。

その涙を見た瞬間、史明はギクリとして固まった。そして、あからさまに狼狽え始めた。
泣き出した絵里花を前にして、どうすればいいのか分からず、とりあえず立ち上がって、絵里花の側までそっと歩み寄った。


「……すまないが、俺にはなぜ君が気を悪くしているのか、全然分からない」


神妙な態度になって語りかけてくれる史明に、絵里花は涙を拭いながら答える。


「普通の男の人は、彼女が髪を切ったりしたら、『可愛い』とは言わないにしても、似合ってるかどうかくらいは評価してくれるんです」

「あ、……え、彼女?!……髪?!」


史明の戸惑う様子を見て、絵里花は悟った。そもそも史明は絵里花を〝彼女〟にしたという自覚もなければ、もともと絵里花がどんな髪型をしていたか初めから覚えていなかったと…。


「岩城さんは、『彼女』にしようとも思わない女に、平気でキスをしたんですか?」


絵里花の心の中に鬱屈していたものが、言葉となって表れてくる。それと共に、溢れてきて止められない涙。それが絵里花の頬を伝って落ちるのと同じように、史明の体中から変な汗がにじみ出て、額のそれが流れて落ちる。


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