彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「彼氏だからって、何か特別なことをする義務があるわけじゃないんです。だけど、時々でいいんです。好きでいてくれてるって、気持ちを表現してくれれば……」
それを聞いて、史明にはもっと汗が噴き出してくる。そう言われても、その気持ちの表現の仕方が、史明にはよく分からなかった。
ただ一度だけ史明がした意思表示は、いきなりキスをするという強硬手段。あれは、清水の舞台から飛び降りるような、史明にとっては一世一代の冒険だった。
さすがにキスまでしなくとも、『好きだ』と素直に言えばいいのかもしれない。今ここで、絵里花にその言葉を言うことができれば、絵里花の心を少しは満たしてあげられるのかもしれない。
「……す……、す……」
史明は『好きだ』と言おうと試みたけれど、声になってそれが出てきてくれない。汗をかき、息苦しそうに声を詰まらす史明の異変を見て、絵里花が表情を翳らせる。
「す?」
「……す、す、…ごく難しいな。彼女なんていたことないから、どうすればいいのか、なにも思い浮かばない……」