彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
……だけど、それから二ヶ月が経とうとしているのに史明は、キスどころか抱きしめてもくれないし、甘い言葉の一つも囁いてくれない。体に残っている感覚が疼いてしまって、もうどうしようもない。
――もう!欲求不満で死にそうよっ!!
絵里花の座る向かい側、史明の場所に置いたメガネに向かって、心の中で叫んでいた。
今は目の前に史明がいないので、堂々とサボることができる。絵里花の眠気はもう飛んでしまっていたが、行き場のない気持ちを抑え込むように、テーブルの上に突っ伏した。
史明とは毎日こうやって顔を合わせているけれど、二人の日常は以前とまるで変わっていなかった。毎日コツコツと古文書の整理をして、解読をして……。史明は相変わらず無愛想で辛辣だし、絵里花を労ったりしてくれないし……。本当にいつも通り。想いを通じ合せてキスしたことなんて、絵里花が勝手に思い描いた夢だったんじゃないかとさえ思えてくる。
――それでも……、岩城さんとは離れ離れになって、この恋も終わってしまうと思っていた頃よりも、マシなのかな……?
絵里花はそう思い直して、必死に今の状況を肯定しようとする。