彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
――どうしよう……。勝手に決めたから、怒ってるの……?
不愛想なのはいつもと変わらないのに、これが〝デート〟だと意識しただけで沈黙することが怖くなる。これからとっておきの場所に行くというのに、気持ちの中に不安が立ち込めてくる。
その時、不意に史明の方から口を開いた。
「そう言えば、ちょっと前にも、こうやって君とタクシーに乗ったな」
「え…?!」
思いもかけない言葉に、今度は絵里花の方から言葉が出てこない。
「君が覚えてないのは、無理もない。ぐでんぐでんに酔っぱらってたからな」
「は…!!」
絵里花の記憶の中に、学会の後の懇親会で酔いつぶれてしまった出来事が浮かび上がってくる。
「タクシーの中はまだよかった。問題は降りてからだ。正体のない君は重くて、背負って運ぶのが大変だったよ」
絵里花の中には、史明が口をきいてくれる安堵感よりも、恥ずかしさが込み上げてくる。
「……あ、あの時は、迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
絵里花の人生の中で、最大ともいえる失態。恐縮して詫びながら、絵里花は顔が熱くなってくるのが分かった。