彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



小さくなって縮こまる絵里花を、チラリと横目で見て、史明は少し可笑しそうに「ふっ…」と息を抜いた。
そんな史明の表情を見て、絵里花の胸がドキッと反応する。


「そもそも『迷惑』だと思うくらいなら、初めからあんなことはしないし。男の俺を支えて山の中を歩き回った君の方が、ずっと大変だったはずだ」


そして、史明のその言葉は、絵里花の心をギュッと鷲掴みにした。この史明に限って〝計算〟なんてしているはずはないのに、こんなにも絵里花を翻弄させて虜にさせる。

こんなにも好きになった人の〝彼女〟になれて、デートができるなんて……。


――なんだか、夢みたい……。


絵里花は唇を噛みながら、自分の中に満ちてくる甘酸っぱく痺れるような感覚に耐えた。


目的の場所に到着して、二人はタクシーを降りた。レストランの店先のさりげない飾りつけを見て、史明が今さらながらにつぶやいた。


「そうか、今日はクリスマス……?」


やっとそこに気がついてくれたようで、絵里花は恥ずかしそうに笑いかけた。


「岩城さんは、『キリシタンじゃない』って言いそうですけど、今日くらいは私のわがままに付き合ってください」


特別な日には、彼女の特別なわがままを聞いてあげるのが、彼氏というもの。史明は三十年以上生きてきて、今初めてそれを学習した。


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