彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜


絵里花のその綺麗な笑顔に今日子の顔が険しくなり、思わず見とれてしまった崇は、きまり悪そうに目をそらした。…と、その視線の先に、気配を消すようにそこに佇む史明の姿を見つける。


「栗田様。お待ちしていました。こちらへどうぞ」


店員に声をかけられて、崇と今日子が店内へと誘われる。崇はそそくさと絵里花と史明の横を通りすぎたが、今日子はまじまじと史明を眺め回した。 そして、振り返りながら、嘲るようにクスリと笑いを浮かべ、崇へと囁いた。


「なあに、あれ。ダサすぎない?」


その一言が聞こえてきて、絵里花の眉間に深いシワが寄った。


――ちょっと…!聞こえちゃうじゃないの!!


絵里花は焦ってチラリと史明の様子を窺ったが、史明はいつものようにレンズの向こうに表情を隠して、その感情を表さなかった。


「とにかく、席が確保できていないんなら、ここで粘ってもメシは食えない。他を当たろう」


特にこのレストランに思い入れのない史明が、少し冷ややかに口を開いた。すると、レストランの店主が、恐れ入って再び頭を下げた。


「本当に申し訳ございませんでした。少々お待ちいただけますか?」


そう言うと小走りでその場を離れ、店の奥へ姿を消したかと思うと、すぐに一通の封筒を手に戻ってきた。

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