彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



「お二人分のお食事券をご用意させていただきました。心ばかりのお詫びとして、どうかお納めください」


そう言いながら絵里花の手に封筒を渡してくれる店長は、絵里花のことを覚えていたらしく、「いつもありがとうございます。是非またいらしてください」と付け足すように囁いた。

そんな細やかな心遣いに、納得できない心情は流されていく。また史明とここに来れると思えただけで、ちょっと嬉しくなってくる。

だけど、そんなことで浮かれていられない。食事をする場所のアテがなくなってしまって、途方に暮れてしまう。


史明に何と言って言葉をかけていいか…。史明からは場を和ませてくれる言葉が出てくるはずもなく…、気まずい雰囲気のまま、あてどもなく歩き続けるしかない。


――無駄足だったって、怒ってる……?


スタスタと前を歩く史明の背中を見て、絵里花は不安になってくる。どうにかして挽回したいと思うけれど、同じようなレストランはどこも、今夜は予約で一杯だろう。


「あの男……、君の前の彼氏か?」


その時突然、そんな問いが投げかけられた。


「……え……?」


絵里花の頭の中でいろいろと行き交っていた思考が、一瞬にして真っ白に消えてなくなった。


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