彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
史明の言う通りなのだから素直に頷けばいいのに、その反応さえも出来ず、絵里花は口をパクパクさせて棒立ちになった。何も答えない絵里花に振り向いて、史明は含みを持たせて息を抜く。
「そのくらいの状況判断ができなかったら、歴史学なんてやってられないだろう?」
たしかに史明の言う通り、歴史学は限られた事実のパーツを組み合わせて、事実だったであろうことを洞察し導き出す学問だ。明晰な頭脳を持つ史明は、あのレストランで交わされたほんの数分のやり取りを聞いて、すべてを悟ってしまったようだ。
「別に君くらいの歳なら、今まで付き合った男の一人や二人いても驚きはしないけど、まさか鉢合わせするとはな」
史明はそう言ったけれど、鉢合わせすることは十分想定できた。今日はクリスマスイブだし、毎年あのレストランには崇と共に行っていた。崇も絵里花と同じ思考をしてもおかしくない。
――崇くんと通っていたレストランに岩城さんを連れて行くなんて、とんでもなく無神経なことしちゃった……。
もしかしたら、史明は気を悪くしてしまったかもしれない。絵里花は自分の思慮不足を後悔して、申し訳なさそうな目で史明を見上げた。