彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
・イブの夜 Ⅰ
バーの入口に立つと、史明は満を持してメガネを外し、ジャケットの胸のポケットへと差し込んだ。視界がきかなくなった史明は、必然的に足元が覚束なくなるので、
「大丈夫ですか?」
絵里花はとても自然なかたちで、彼と腕を組むことができた。
センスの良い絵里花の選んだ洋服に身を包んで、素顔を見せた史明は、誰もが息を呑むくらいにカッコよく、絵里花はもともと、誰もが振り向くくらいに艶やかで麗しい。そんな二人が寄り添い歩く姿は、バーに入ってきた瞬間から、店内中の注目を集めた。
そこは史明にとって、あまり馴染みのない場所だった。
オークを使用したテーブルやカウンター。暖かい色のいろんな趣のランプが照らす店内。
どんな分野にでもアンテナを張り巡らせて、上質なものを選ぶ絵里花が行きつけていたバーなだけあって、とてもお洒落なお店だった。
しかし、実のところ、当の史明にはほとんど見えていない。ランプの灯りがぼんやりと視界に浮かぶだけで、カウンターの向こうにいるバーテンダーの顔も、隣に座って可憐な笑みを浮かべている絵里花の顔も、全然見えていなかった。
「崇くんたち、来てないみたいですね」
店内を一通り見回して、絵里花が史明に囁きかける。