彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
崇と今日子との〝対決〟に意気込んでいた史明も、
「……彼らがいないんなら、しょうがないな」
と少々息を抜いたが、やはり落ち着くことはできなかった。
そわそわとする史明を訝しんだ絵里花が声をかける。
「どうかしたんですか?……トイレなら、一番奥にありますけど?」
「……と、トイレじゃない!」
顔を赤らめながら、史明が焦って言い返す。すると、向かいに立っていたバーテンダーがクスリと笑った。史明と絵里花が同時にバーテンダーへと目を遣ると、彼は漏らした笑いをにこやかな表情に変えて向き直った。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね。望月さん」
「あら!一年以上もここに来てないのに、よく覚えてましたね」
そう言う絵里花も、このバーテンダーのことを覚えていたのだろう。知人に対する打ち解けた声のかけ方だった。
「望月さんほど綺麗な方を、忘れたりするはずありません」
そう言うバーテンダーも、洗練されつつも艶があるイケメンだった。史明にはこの男の容姿はほとんど見えていなかったが、絵里花にかけられる彼の穏やかで親し気な言葉は、却って史明をもっと落ち着かなくさせた。