彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜



「こちらのビックリするくらいハンサムな方は?」


バーテンダーは史明に、柔らかい視線を向けた。
『怪しい人』普段はそんな評価をされている史明は、『ハンサム』なんて言われて、改めて面食らってしまう。


「こちらは岩城史明さん。私の……」


絵里花はそこで言葉をためて、チラリと史明の表情を窺った。


「私の、彼氏、なんです」


思い切った口調で、絵里花は宣言するように言った。


「……え、彼氏?」


戸惑っているような口振りのバーテンダーの脳裏には、かつて絵里花の隣にいた崇の姿が浮かんでいるに違いない。


「よろしく。彼氏の岩城です」


史明は敢えて〝彼氏〟を強調して、笑顔で爽やかに自己紹介をした。
そんな史明に絵里花の胸がドキンと反応する。


――ちゃんと『彼氏』だって言ってくれた……。


その喜びを噛み締めながら、史明の横顔を見上げる。そこにいたのは、いつもの無愛想で怪しい史明とはまるで別人だった。


――このギャップ!もう、たまんない〜!!


いつもはだらしなく見える無精ヒゲまで、今日はとんでもなくステキに見えた。


「……な、なんだ?俺の顔に何か付いてるのか?」


史明が、絵里花をチラリと見て言った。うっとおしがるような素振りを見せているが、その実、自分の表情や仕草が不自然なのではないかと、内心はドギマギしていた。

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