彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「いえ、何も……♡」
そう答えながらも、絵里花はうっとりと史明を見つめて動けない。その真っ直ぐな眼差しに耐えかねて、史明がバーテンダーへと目を向けると、バーテンダーもポワンと史明に見惚れていて目が合った。
「……あ、あの。何をお飲みになりますか?」
我に返ったバーテンダーが、史明に尋ねる。
「ああ、それじゃ、ビールを」
と、史明もそこまではスマートに対応できたが、
「なんのビールにしましょう?」
そう返されて、言葉に詰まってしまった。ビールと言えば、〝瓶〟か〝生〟。それをここで答えてしまうのは、適当だろうか……?
「何か珍しいスタウトビールなどありますか?」
すると、隣から絵里花が言葉を挟んで、さりげなく助けてくれる。
「マーフィーズのアイリッシュスタウトなどはいかがでしょう?」
「ああ、苦味が少なくて、柔らかい味わいのビールですよね?岩城さん、飲んでみたらいかがですか?」
「うん、それにしてみよう」
と、会話の成り行きでそう答えてみたけれど、史明は当然そんなビールは知らず、グラスに注がれて出てきたそれが黒いことに驚いた。