彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
嫌味がそこはかとなく漂う絵里花の物言いに、史明は古文書に落としていた目を、絵里花へと向けた。
「そりゃあ、いつも泊まり込む時はアレで寝てるからな。もう俺の体の一部みたいなものだ」
――ああ!もう、私!!あの寝袋になりたい……!!
絵里花は、そう思わずにいられなかった。史明に常に寄り添えるなんて、なんて幸運な寝袋なんだろう……と思ったところで考え直す。
――いや……っていうか、あの寝袋、絶対、腐ってるし!
あの寝袋は、いつも史明がお風呂にも入らずに使い、用が済むとそのまま畳まれて、整理棚へと戻される……。
いつか絶対あの寝袋を洗わなくては…!と、絵里花は密かに決意した。そうしておかないと、もし史明に抱きしめられた時に、心置きなく抱きしめ返すことができない。
――そもそも、抱きしめられること……、あるのかな……?
ここまでくると、絵里花は不安になってくる。そもそも史明には、〝付き合っている〟という感覚がないのではないか……と。
目の前で解読作業を再開した史明を見つめる。古文書を見つめる目つきは真剣そのもの。絵里花は未だ、あんな眼差しで見つめられたことがない気がする。