彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「せっかくですから、居酒屋なんかには置いてない、こんなビールもいいですよね」
そう言いながら微笑んだ絵里花は、
「私は、グラスホッパーをください」
と、綺麗な緑色のカクテルを頼んだ。
黒ビールを一口飲んだところで、史明が絵里花に尋ねてみる。
「君のその酒には、まさかバッタが入ってるのか!?」
「ブ…ッ!?」
優美な手つきでグラスを口に運んでいた絵里花は、思いがけない問いかけに思わず吹き出してしまった。
「は?!バッタが?!」
絵里花としてはあり得ない粗相に焦りながら、口を拭う。
「グラスポッパーって言う通り、バッタみたいな色してるし。バッタをすりつぶした粉でも入ってるのかと。」
メガネを外して、いくら絶世のイケメンになったとはいえ、中身はやっぱりいつもの史明だ。至極冷静にこんなことを言ってのける。
「漢方薬じゃあるまいし、入ってるわけありません!」
真面目な顔でムキになっている絵里花に、史明はフッと口元をほころばせて笑いをこぼした。
その笑いの意味を考える前に、絵里花はその笑顔に見入ってしまって、我を忘れてしまう。メガネを外した史明が、こんなふうに笑いかけてくれるのは、もしかして初めてかもしれない。