彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「……冗談、なんですね?」
胸の高鳴りを押さえながら、絵里花は上目遣いで史明を睨んだ。そのなんとも言えない可愛いらしさに、バーテンダーも目を奪われたが、肝心の史明にはよく見えていなかった。
それでも、それからそれぞれの飲み物を一口飲んだら、気持ちもホッと落ち着いて、崇や今日子のことはどうでもよくなった。
「バッタと言えば、今じゃ食べなくなったみたいだけど、昔はけっこう食べられてたんじゃないかな?」
ビールを飲みほした頃、不意に史明が話題を振った。
「ええ?!バッタをですか?」
――っていうか、なんでまだバッタなの?!
絵里花は心の声を飲み込みながら、相づちを打った。
「バッタ……は、さすがにないか。だけど、イナゴは江戸時代の文献にも出てくるよ。今でも佃煮や唐揚げなんかにして食べる地域もあるらしいね」
「イナゴって……」
虫のことには詳しくない絵里花は、その違いがよく分からなかった。
「イナゴは茶色いけど、バッタは緑色だね。イナゴが茶色なのは、もっぱら穀物を食べるからなんだが、だからこそイナゴの方が味がいいらしい」
「へえぇ〜!!そうなんですか〜!」
史明のウンチクに、絵里花よりもバーテンダーの方が感心して、感嘆の声をあげた。
かたや絵里花の方は、『味がいい』なんて言われても、やっぱりちょっと気持ちが悪いと思ってしまう。