彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「俺の顔に何かついてるのか?ボーっとする暇があったら、史料の一つでも整理してもらいたいんだが?」
絵里花は何も言葉を返せず、肩をすくめた。絵里花がどんな気持ちで見つめているのか…なんて想像さえしてないのだろう 。こんな言動は、想いが通じ合う前と全く変わらない。
「はぁ~…」と、絵里花の口から大きなため息が出てくると、史明はもっと不愉快そうな顔をした。その空気を察した絵里花は、神妙な面持ちで古文書に向き直る。すると、今度は史明の方からため息が放たれた。
「集中できないなら、休憩を入れたらいい。もう三時になるだろう?」
「……え、でも」
今までさんざんサボっていたのに、休憩に行くわけにはいかないと、絵里花は思った。
「君のために言ってるんじゃない。注意力散漫な状態で、文書を破損させられたら困る」
史明の言っていることは間違っていない。貴重な古文書を扱うのならば当然のことで、絵里花のことを嫌っていたり憎んでいるわけではないことは、解っている。……だけど、史明のこの言葉に、絵里花の胸が恐れを感じてキュッと縮こまった。
「分かりました」
絵里花はひとこと言い残すと席を立ち、収蔵庫を後にした。