彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
・イブの夜 Ⅱ
二人は腕を組んだままバーを出て、数十メートル歩く。そこで、史明は立ち止まり、ポケットの中を探って自分のメガネを探し当てた。
メガネをかけていつもの史明に戻ると、もう絵里花が先導する必要はなくなってしまう。絵里花は少しガッカリして、史明の腕に添えていた手を引っ込めた。
その時、史明の口の端から笑いがこぼれ出てくる。今まで我慢していたものが、やっと解放できたらしい。次第に大きくなっていく笑いと共に、史明は言葉を絞り出した。
「あの二人、どんな顔してた?なんだか呆然としていたような感じだったけど?」
視力の弱い史明にははっきりと見えなかったらしいが、絵里花にはちゃんと見えていた。
崇と今日子の呆気にとられたあの間抜けな表情……。それを思い出して、絵里花も思わず笑いの息を噴き出した。
「……は、はい。岩城さんの豹変ぶりに、魂抜かれたような顔をしてました」
絵里花がそう言うのを聞いて、史明はもっと朗らかに笑った。その笑顔を見て、絵里花もどんどん可笑しく思えてきて、声を立てて楽しそうに史明と笑い合った。
「思いのほか、楽しかったな」
笑いの後の和やかな表情で、史明は穏やかな声色のそんな言葉をこぼしてくれた。