彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「岩城さん、案外悪戯好きなんですね」
史明の意外な一面を知れて、絵里花は本当に嬉しくなる。
「いや、悪戯じゃないよ。これはささやかな仕返しだ。君は、あの『崇くん』と別れることになった時、あの二人に裏切られたんだろう?」
「え……?」
その事実を洞察されて、絵里花は驚いた顔をして史明を見上げた。
「今日ので、一矢報いることができたんじゃないか?」
一矢報いたいなどと思ったこともない絵里花だったけれど、崇に裏切られた時の惨めさが今さらながらに蘇ってくる。
だけど今、絵里花の目の前には、史明の優しい言葉と笑顔がある。それは、惨めだった思い出をすべて忘れさせてくれるほどの力があって……絵里花は胸がいっぱいになってくる。
「……そんな、泣くほど辛かったのか?」
涙で潤んだ絵里花の瞳を見て、史明が顔を曇らせた。
「ち、違います!これは……!」
この涙は、史明の優しさが心に沁みたからに他ならない。だけど、その弁解は言葉にならず、絵里花はとっさに涙を拭って平静を装った。
「それとも、『崇くん』が恋しくて泣いてるのか?」
「はあ?!!」
絵里花は眉間に皺を寄せて、史明の澄ました表情を凝視する。すると、史明は微かに唇を震わせて、笑いを押し殺していた。