彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「……岩城さんって、意地悪なんですね」
苦し紛れの絵里花の言葉に対して、史明は口元を緩めて開き直る。
「そうだ。俺は底意地悪いんだ。今ごろ知ったのか?」
「いいえ。とっくに知ってました。何度も何度も怒鳴られて……。心の中で何度『このやろう…!』と思ったことか」
これを聞いて史明は驚いたのか、固まって絵里花を見下ろした。
――だけど、そんなあなたのことを、私は大好きになってしまったんです。
絵里花はニッコリと微笑んで、史明を見つめ返した。その眼差しを受けて、史明もその表情に微笑みを浮かべる。
「さあ、これからどうする?行きたいところは?」
史明から問われた言葉の暖かさに、絵里花は却ってその瞳に切なさを宿した。いつもは自分を押し通す史明が、こうやって絵里花の意志を尊重してくれようとしていることに、絵里花の心が震えた。
「……ん?」
史明は、何も答えられない絵里花を覗き込んだ。その史明の顔を見て、絵里花は考える。
場所なんてどこでもいい。今夜はずっと史明と一緒にいたい。絵里花の望みはそれだけだった。こんなふうに史明が絵里花の〝お願い〟を聞いてくれることなんて、次はいつのことになるか分からない。どこか適当な場所を答えて、この夢のような時間を少しでも長く味わっていたい……。