彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
だけど、絵里花の口から出てきたのは、そんな願望とは程遠かった。
「……本当は食事だけの約束でしたから、もう十分すぎるくらいです。遅くなりましたから、帰りましょう」
史明は意外そうな顔をしたが、絵里花はこれでいいと思った。これ以上史明を連れまわしてしまうのは、なんだか申し訳ない気がしていた。
「それじゃあ、君を家まで送っていこう」
「……え?」
頭の片隅にも想定していなかった展開に、絵里花は戸惑って感謝の言葉も返せない。
「なんだ?迷惑なのか?」
史明に訝しがられて、絵里花は焦って首を左右に振った。
「いいえ!……でも、送ってもらってたら、岩城さんは終バスに間に合わなくなると思います」
「別に構わない。それこそ、こんな夜遅くに女性を一人で帰らせるわけにはいかない」
「ええええっ!?ホントですか??」
史明の口から出てきている言葉とは思えなかった。絵里花は驚きを隠せず、思わず目を剥いて問い直してしまう。
「いくら俺でも、そのくらいの心得はある」
驚かれると極まりが悪いのか、史明はいつものように少しぶっきらぼうな調子になった。すると、絵里花の方もなんだか落ち着いてくる。
絵里花は、大通りに向かって歩き出してる史明の背中を追いながら、まだこの夢のような時間が続いてくれることに心を躍らせた。