彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「いえ。ちょっとおろそかにしてたことが気になって……」
「ふうん?何事も抜かりのない君でも、『おろそか』にすることがあるんだな」
史明も気に留めるふうでもなく、窓の外に目をやった。
「おや、この通りは賑やかだな」
史明が気に留めたのは、別のこと。そのつぶやきにつられて、絵里花も車窓から街の様子を眺めてみる。すると、そこに広がっていたのは、色とりどりのイルミネーションが瞬く幻想的な景色だった。
絵里花は息を呑んで、それまで頭の中でごちゃごちゃと考えていたことを全て忘れてしまった。
今まで何度もこの通りのこのイルミネーションは見ているのに、今ここで目に映っているこの景色は、まるで初めてそれを目にするかのような新鮮さで……、キュッと絞られるような切なさを伴って心に響いた。
「……すごく、綺麗……」
絵里花は思わず言葉をこぼしていた。その言葉を受けて、史明もジッと窓の外を見つめたまま応えた。
「そうだな。……今まで見ようと思ったこともなかったけど……、こんなに綺麗だったんだな」
史明は絵里花の感動を一笑に付すことなく、絵里花と心を共有してくれた。
この景色がこんなにも美しいのは、二人で見ているから。側にいる人を愛しいと想うフィルターを通せば、こんなにも世界は光で満ちて美しい。