彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
階下の研究室に隣接する給湯室で、濃いめのコーヒーを飲みながら絵里花は考える。収蔵庫にいる史明は、〝研究者〟の彼なのだと。きっと収蔵庫や研究室じゃなければ、絵里花を〝恋人〟として扱ってくれるに違いない……と。
休憩が終わって作業に戻った絵里花は、チラリと向かいに座る史明の様子を窺って、心に浮かんだ計画を実行に移す決意をする。
今日こそは史明を連れ出して、食事に行って、デートのようなことをしたいと思った。
――二人で夜の街を歩いてたら、……キス……くらいしちゃうかもしれないし……!!
到底あり得そうもないシチュエーションを、めちゃくちゃリアルに想像して、絵里花の息が荒くなる。
「さぁ!頑張ろ♪」
俄然やる気が湧き出てきて、絵里花は鉛筆を握った。
史明は古文書から目をあげて、そんな絵里花を不可解そうにチラリと見たが、またすぐに手元の古文書に視線を戻した。
そして……、終業時刻になった。
いつものように身の回りのものを片付けながら、絵里花は考えた。どんな言葉で話しかければ、史明は絵里花の誘いに乗ってくれるのだろう?
もっときちんと前もって考えておけばよかったと、この場面になって思い至った。