彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
「君を見ていて、なんとなく予想はしていたけど……。やっぱり君は〝いいとこ〟のお嬢さんなんだな」
「え……」
史明がどういう意味合いでそう言ったのかは解らなかったが、絵里花はそんなふうに言われることが好きではなかった。『いいとこのお嬢さん』というその表現。これまでこんな言われ方をしてきた経験は何度もあるが、それが好意的に聞こえたことは一度もなかった。
ましてや、今の史明の表情と声色は、物怖じしているようにさえ感じられる。
「全然〝いいとこ〟なんかじゃないですよ。このマンションだって、私が生まれる前から建ってて、古いんですよ?新しい家のローンもあるし、このマンションはもう売ってしまった方がいいって、私は言ったんですけど……。私は新しい家に住んじゃダメだって言われたんです」
「どうして?」
史明の言葉の響きには、『もっと知りたい』という純粋な疑問が含まれていた。どんなかたちであれ、史明がこうやって興味を持ってくれることは、絵里花にとっては嬉しいことだった。
「今どき、年頃の娘はちゃんと自立してないと、悪い虫どころか良い虫さえも着かないって……」
「虫……」
「いえ!あのっ!だからって、岩城さんを『虫』って言ってるわけじゃないんですよ?!」