彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜
絵里花は焦ってそう弁解したが、今こそ両親が作ってくれたこの状況を最大限に生かす時だと思った。史明が絵里花を送ってくれるなんて、次はいつになるか分からない。
「……そ、それでですね、岩城さん。せっかくですから、……お、お茶でも飲んでいきませんか?」
ただお茶に誘っているだけなのに、絵里花は変に緊張した。話の成り行き上、その誘いはまるで、
『二人っきりになってエッチしましょう♡』
と言っているようなものだった。
史明は、返答に迷っているのだろうか。黙り込んで、ただジッと絵里花を見つめるばかり。
沈黙の中、ドキンドキンと跳ねる胸の鼓動だけが絵里花の耳に響く。緊張と恥ずかしさで、顔がカーッと熱くなったが、二人を取り巻く冷たい夜の暗さが、頬の赤さを紛らわせてくれた。
迷いを表すように、史明は一つ大きな息をついた。そんな些細なことにさえ、絵里花の心は不安定に揺れ動く。
「……いや、今日は遅いから、これで帰るよ。明日も普段通り仕事があるからね」
言葉通りの意味なのに、絵里花はショックのあまり、史明が何を言っているのか理解できなかった。
「……そう、ですか。そうですよね。明日も仕事ですもんね」
辛うじて、そう言葉を返す。そして、心の中の落胆を悟られないように、得意技のにこやかな笑顔を作った。