甘い恋は復讐の後で
「伶央さん……。
 やっぱり疲れてるんじゃない。」

 私のショットが終わって伶央さんに声をかけたのに椅子に座ったまま眠ってしまっていた。
 限界まで我慢していたんだと苦笑する。

 起こすのも忍びなくて私も小さなテーブルを挟んだもう一つの椅子に腰掛けた。
 近くに座ると彼のウッディな匂いが鼻をくすぐって胸がトクンと高鳴った。

 サラサラと流れる髪に触れたくて手を伸ばす。
 ドキドキと鼓動が速まって髪に手が触れた。

 そっと髪を持ち上げると安らかな寝顔が露わになって、その顔をいつまでも見ていたいと思った。

 持っていたヘアクリップで音が鳴らないように髪を留める。

 やっぱりこうしてた方が似合ってる。

 ふふっと満足げに眺めていると彼は何か呟いた。

「ボクの……。」

「え?何ですか?」

 僕なんて伶央さんが珍しい。
 夢でも見てるのかな。

「可愛いウサギちゃん………。」

「えっ。」

 ガタガタガタン。

 驚きで椅子から飛び退いた。
 大きな音が辺りに響いて彼は怪訝そうに目を開いた。

 周りの人も一瞬、こちらを見て辺りに静寂が流れる。
 それからまたビリヤードを撞く軽い音が戻って私たちを置き去りにした。


< 103 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop