甘い恋は復讐の後で
 時間差で髪に触れた手が震えてその手を胸に抱いた。
 今さら緊張しているのに、あの時は瞬間的に触れたいと思った。

 こんな気持ちは初めてだった。

 想像していた自分の中の好きになるイメージの人とはかけ離れていて………。
 えっ。ちょっと待って、私………。

 自分に芽生え始めた気持ちに自分自身が追いつけなくて動揺がキャパオーバーした。

 あわあわする気持ちを落ち着かせる為に深呼吸を何度かすると携帯が騒がしいことに気がついた。

 確認すると兄からのメールと着信が山のように届いていた。

『莉緒ちゃん?一人暮らし寂しくない?』

『お兄ちゃん寂しいよ。』

『莉緒ちゃん。元気?』

 莉緒ちゃん……莉緒ちゃん……。
 似たようなメールの合間に着信も何件も。

 深いため息をついて短くメールを返した。

『うるさい』

 これを送るとしばらくおとなしくなる。

 実家にいる時に、あまりにひどくてブチ切れた末にこの一言と完全無視したのが効いたようで、これを言われたらそっとしておかないとまずいと学習したようだ。

 お兄ちゃんのこと……嫌いなわけじゃない。
 ただ過保護過ぎるというか……もっと理想のお兄ちゃんと言えばさ。








< 27 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop