甘い恋は復讐の後で
 日射しが降り注ぐ明るいロビーで資料を派手にばら撒いてしまった。

「すみません。すぐに片付けます。」

 焦りながら拾う手は微かに震えてうまく拾うことが出来ない。
 それらを拾ってにこやかに手渡してくれた人物……。

 その目の奥は笑っていない。

「あ、ありがとうございます。」

 小さくお礼を言って目を伏せた。
 そもそも、その人に驚いて驚きのあまり資料を落としてしまったのだ。

 眼鏡をかけて、前髪は緩やかに横へ流してはいるけれど確かに彼だ。伶央さんだ。
 見間違えるわけがない。


 私の仕事は事務で、普段は社外の人と会う機会はない。
 上司がクライアントに会うのもいい経験だと、打ち合わせに同席することになった。

 打ち合わせの相手はシステムキッチンの総合メーカーのジェニアル社。

 我が社はシステムキッチンの部品メーカーであるプレビアス社だ。

 今までも度々仕事で関わっているジェニアル社との打ち合わせに伶央さんが現れるなんて誰が想像するだろうか。

 私は電話口と書面上でしか知らなかったジェニアル社の人達。
 もしかして今までも………?









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