甘い恋は復讐の後で
 伶央さんに連行されるような形でお店に戻ると伶央さんはバックヤードに行ってしまった。
 私はおずおずとカウンターに座り直した。

 伶央さんと話していた女の人は別の男の人とビリヤード場の方へ向かっていく後ろ姿が見えた。

 ………大人の世界は分からないや。
 だってあんな…………。

 ただ頬にキスと言うけれど、私をまっすぐ見つめる瞳には色気が漂っていて、もう少しで触れてしまいそうな唇が…………。

 頭を振って、ダメダメ、考えない!思い出さない!深い意味はない!と、標語のように頭の中で唱えた。

「大丈夫ですか?
 どうぞ。ブシーキャットです。」

「……キャット?」

 マスターが私の前に置いてくれたカクテルの名前を聞いて復唱した。

「可愛い子猫ちゃんというところでしょうか。」

 ……可愛い子猫ちゃんかぁ。
 そう言われて前に伶央さんが手のひらに抱いていた子猫を思い出した。

 可愛かったなぁ。

 彼はいつの間にかカウンターの向こう側でシェイカーを振っていた。
 見惚れてしまいそうで、そっと視線を外した。





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