甘い恋は復讐の後で
10.下僕と天邪鬼
　鍵を返してきた伶央さんと帰り道を歩く。

「あの、どうしてあの時………。」

　気になっていることを聞きたくて思い切って口火を切った。
　それなのに続きはなかなか口から出ていってくれない。

　連絡先を教えてくれたのはどうして？
　それに何故その時に手を握ったの？

　聞きたいのに聞けない。

　フッと笑った伶央さんが私の言いたいことが分かったような内容のことを口にした。

「お前、下僕の分際で連絡してこないとはどういう神経してやがる。
　必要な時に呼び出せないだろ？」

　下僕。そうか。下僕だからか。

　そう思うのに嬉しいようなガッカリしたような。
　気持ちは伶央さんの一言に簡単に浮き沈みする。

「どんな時に呼ばれるんですか？」

「掃除？ゴキが出た時？」

「ゴキ……ゴキブリですか？」

「あぁ。アレだけは苦手だ。」

　ヤダ。なんだか可愛い。

「私も苦手ですよ。」

「なんだよ。使えねぇなぁ。」

　意地悪な笑みを浮かべた伶央さんは街灯に照らされて眩しかった。
　意地悪な笑みのはずなのに、その笑みは優しかった。






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